この記事では、相続注力の会計事務所に向けて大手法人の報酬設定に負けないために気を付けたい2つのポイントについて解説しています。
1.そのエリアの平均的な財産評価額を考慮し、「そのレンジ以下の評価額の方々」の報酬設定を、競合事務所と同等かそれ以下の報酬に設定する
2.相続税申告以外のサポートメニューを作り、追加提案(クロスセル)することで、一件あたりの平均受任単価を上げる
こんにちは。相続・財産管理分野に注力する士業事務所の専門コンサルタント川崎啓です。
今回は会計事務所で相続業務に注力するご支援先や研究会会員事務所様に今お伝えしていること「値上げのススメ」というテーマでお伝えしたいと思います。
ここ数年で、相続分野、特に会計事務所の相続税申告をめぐるマーケティングは競争が激化しており、大手税理士法人を中心に相続税申告報酬の値下げ競争が起こっています。
「相続税申告報酬13万円から~」という見出しでリスティング広告文が検索画面の一番上に出ることも多く、また「自分でできる相続税申告6.9万円~」を士業以外の企業が打ち出しているケースも出てくるなど、相続税申告報酬は今後も間違いなく値下げ競争が激化していくと思います。
上記のように、相続税申告報酬を値下げできる大手法人は、多くの手続き業務処理を行うことで業務処理ノウハウを蓄積し、業務効率化できるシステムを利用しています。また、熟練した業務対応スタッフを雇用することで高生産性を維持することができ、結果として低い原価で業務に対応できることから、報酬を下げることが可能になります。
相続税申告業務に特化した大手法人の代表に話をお伺いしたことがありますが、その事務所は一般的な他事務所に比べておおよそ2倍の業務処理が可能な体制が出来ているとおっしゃっていました。
その分、販促コストに多額の費用を投じ、大量の相続税申告案件を受任、処理することで利益を出すというビジネスモデルを展開しています。一件あたりの利益は少ないものの、受注ロットを大きくすることで利益を出す構造です。
目次
大手法人の報酬設定に負けないために気を付けたい2つのポイント
一方で、船井総研のご支援先や研究会会員事務所様には、闇雲にその値下げ競争に影響を受けるのではなく、しっかりと利益が出る形で報酬設定を行うようにお伝えしています。
売上だけではなく、利益が出る報酬設定、つまり販促費や業務処理に係る人件費などを鑑みた上で報酬を設定しなければなりません。相続税申告の業務経験が浅く、対応スタッフも少ない状態では人件費率を下げることが難しく、その状態で闇雲に値下げをしてしまうと、一向に利益が上がらず、相続分野を成長軌道に乗せることが難しくなってしまいます。
とはいえ、もちろん前述のような大手法人の相続税申告報酬を意識した報酬設定をしなければならないケースもあります。単純な話ですが「事務所立地」がポイントで、有名な相続税申告特化の大手税理士法人が出店しているエリアに事務所がある場合には、彼らのことを考慮した報酬設定にする必要があります。
その場合、以下のポイントに気をつけて報酬設定をしていただくと良いと思います。
① そのエリアの平均的な財産評価額を考慮し、「そのレンジ以下の評価額の方々」の報酬設定を、競合事務所と同等かそれ以下の報酬に設定する
② 相続税申告以外のサポートメニューを作り、追加提案(クロスセル)することで、一件あたりの平均受任単価を上げる(「単価<LTV」で考える)
相続財産が低い方は、事務所の選定基準を「報酬(費用)」で見る傾向が強く、一方で、相続財産が多い方は「報酬(費用)」以外の部分で事務所を選ぶ傾向が強いとされています。
よって、そのエリアの平均的な財産評価額から顧客のボリュームゾーンを把握し、その財産評価額以下の方々の相続税申告報酬は「商圏内最下限価格」に設定します。
それ以上の評価額帯においては競合事務所よりも多少割高でもよいと思います。
それだけでは単純に利益を削ってしまうので、相続税申告以外のサポートメニュー(相続財産の名義変更手続代行、不動産売却サポート、二次相続の提案など)を作り、提案することで受任単価を上げることが必要です。フロントエンド商品(客寄せ商品)を「相続税申告」とし、バックエンド商品(収益商品)を受任することで利益を上げるという考え方が必要です。
また、次回以降のコラムでも会計事務所様に取り組んでいただきたい相続関連業務値上げのポイントについてお伝えしていきたいと思います。
【執筆者:川崎 啓】